ちあきなおみ 矢切の渡し 

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ちあきなおみ 矢切の渡し 歌で演じる3分間のドラマ

「歌は3分間のドラマ」とは使い古された言葉ございますが、どの歌、どの歌手もがこの「3分間のドラマ」を演じきれているでしょうか?
ココにある『矢切の渡し』
実は二人の歌手によっての競作でした。

1976年に発売されたちあきなおみによる『酒場川』のB面として収録されておりましたが、1982年にこの『矢切の渡し』が梅沢冨美男の舞台演目に用いられたことで脚光を浴び、改めてシングルA面として再発売されました。
ところが、業界の大人の事情から、翌年に細川たかしがこの曲を歌い、ちあきなおみ盤は廃盤になります。

その後、細川たかしは『矢切の渡し』でミリオンセラーを記録し、第25回日本レコード大賞を受賞するに至りました。
しかし、有線放送のチャートでは、ちあきなおみ盤が圧倒的な1位を誇り、まざまざと実力の差を見せつけたのでした。

この曲の作曲家船村徹をして、言わしめた言葉があります。

「細川たかしの舟にはエンジンが付いていて、ビューって江戸川を渡るけど、ちあきなおみの舟は和舟で、ギーコギーコと船頭が漕ぐ音がする」

けだし名言でございます。

もうひとつふたりを評した言葉がございます。

「細川君はいいところに目をつけていると思うが、歌っている姿がおよそ見当もつかない。美声ではあるが一本調子歌い方だ。ちあき君は観賞用に耐える歌い方、細部まできっちりと聞かせている。細川君は楽曲の難しい部分を省略しているので、誰でも歌える歌にした」

なるほど、カラオケでたくさん歌われた訳が分かりました。

ちあきなおみは、そして男唄と女唄を歌いわけることができる歌手でした。
冷たい雨がそぼ降る夕暮れに、親の言いつけに背き、小さな渡し舟で逃避行に走る男と女。
女は男の心変わりの不安を胸に抱え、見捨てないで欲しい気持ちを込めた「「つれてにげてよ・・・」の言葉はすがる思いが、返しの「ついておいでよ・・・」は男がその不安を包み込むように歌い上げております。
おそらく「・・・」には二人が目を見つめあう時がありましょう。余韻ですね。

細川たかしの歌には『ココ』がありません。
梅沢冨美男が踊る時に、細川たかしの歌ではなく、ちあきなおみの歌を使う理由がそこにあるのですね。
作曲家の船村徹が「『矢切の渡し』はちあきなおみのように歌わなければならない」と言い、梅沢冨美男も「『矢切の渡し』はちあきなおみの曲でなければ踊れない」と言います。

ちあきなおみは、さらにそのあと「夕暮れの雨が降る矢切の渡し・・・」と、周りの景色を歌い上げています。
つまり、女と男のやり取りと情景をすべて歌で表現しているのです。
だからこそ「歌は3分間のドラマ」と言い切れるのでございましょう。

これだけの歌い方ができる歌手が、いったい何人いると言えるのでしょうか?
不世出の歌手『ちあきなおみ』こその歌であると言えましょう。

特集:ちあきなおみをもう一度

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