伊東四朗 劇団時代 女心はわからない

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伊東四朗 劇団時代 女心はわからない

見事劇団デビューを果たした四朗ちゃん。
さて、その時の芸名は今と違うの。

「伊藤 証」

って言ったのね。

巷では「一等賞」からきてるって言われることもあるけど、違うのよ。
四朗ちゃん、本名は「伊藤 輝男」って言うんだけど、「輝」って言う字が好きで、「男」を抜いて「しょう」って読ませていたの。
でも「輝」は「しょう」って読むなんてどの辞書にも出てないわよね。
そんな難しいこと抜きで、早稲田大学のアルバイトしていた時には「しょうちゃん」って呼ばれていたんだって。
まぁ、おおらかな時代よね。
で、芸名を「いとうしょう」にするんだけど、「しょう」を「笑」ではあまりにも見え透いているんで、ごんべんに正しい「証」にして「伊藤 証」になったってわけ。
これが本当の話。本人が言うんだから間違いないわ。

役者になったはいいけど、もともと素人だから、うまく芝居できるまでは大変だったみたい。
以前他人が演って受けた場面も自分が演ると受けない。
周りは「あそこは前に演った時は受けたよな」とか、いろいろ言われたらしいの。
そんでちょっと落ち込むと、今度は「声が出てない!」って。
じゃぁってんで、屋上で大きな声で練習していると「うるさい!」ってまた怒られて。
でも、今思えばその時に鍛えられたから今の四朗ちゃんがあるのよね。

四朗ちゃん、そん時のことを思い出してこう言っていたわ。
座長に言われた言葉、「お前がうまいと思った役者は神様みたいな役者。お前が自分と同じと思っている役者はお前よりはるかにうまい役者。お前より下手だと思う役者がお前と一緒の役者だ。」
う~ん。いい言葉ね。こういう人たちに囲まれて育てられたのね。
今の時代、なかなかないと思うわ。

そんな忙しい役者生活の中、一座に若い女の子が入ってきたの。
ちと色気が出てきたころの四朗ちゃんも「おっ」って思ったんでしょうね。
新宿で芝居が終われば、新宿駅まで帰り道は一緒の方向。
四朗ちゃんは青梅街道を歩いて帰れる距離で、彼女は新宿から二駅の東中野。
駅までの数百メートルの時間はさぞときめいたことでしょうね。

ここで四朗ちゃん、勝負に出ました。
「お茶でもどう?」
生まれて初めての言葉に自分が戸惑ったって。
で、コーヒーかなんかを。 四朗ちゃんは「コーシー」って頼んだんだと思うけど。
そのあとも予期せぬ行動に。
「おーい、タクシー」って手を挙げたのね。
東中野まで送るって。
もう完全に自分では二枚目よ。

でも、彼女が降りてしばらくしたら、四朗ちゃんもそこで降りて、歩いて家まで帰ったってわけ。
涙ぐましいわね。
次の日からは、もう彼女のことで頭がいっぱいね。
当然芝居では怒られる。そんなことはどうでもよかったんでしょ、そん時は。
ついにデートで、生まれて初めて女性と手を繋いだっていう事実は、天にも舞い上がる気持ちだったでしょう。

ところが、なかなかうまくいかないもの。
劇団の先輩が、その子を狙っていたんだって。
さぁ、大変。
腹いせに舞台や楽屋でさんざん嫌がらせをされたらしいわ。

それだけじゃないの。
ほんとに女心はわからないものよね。
世界は二人のためにあるくらいに幸せいっぱいだったある時に、自分の前を腕を組んで歩いているカップルがいたの。
誰だと思う?その彼女と四朗ちゃんの友達だったんだって。
もう絶望のズンドコよね、じゃなかったドン底よね。
舞い上がって、怒鳴られて、いびられて、奈落の底に落とされて。
四朗ちゃんも一つ人間が大きくなったと思うけど。

伊東四朗30

女は怖い、とつくづく感じた四朗ちゃんに次の出来事が訪れたの。
四朗ちゃんのファンだって言う娘が楽屋に訪ねてくるようになって。
劇場のそばに住んでたんで、四朗ちゃんも彼女の家に遊びに行ったりしてたのね。
ご両親にも会ったって言ってたわ。いい感じだったって。

ここぞとばかり四朗ちゃん、座長にお休みを貰ってある行動に出たのよ。
二泊三日の伊豆の伊東一周旅行。
何も伊東四朗だからじゃないだろうけど。
ま、本人十分に結婚を前提とした意志の表れだったと思うわ。
でね、当日心躍らせて待っていた東京駅に彼女は来なかったの。
楽しみにしていた二人の旅行が、一転ひとり旅に変わるなんて。
今でこそ、男のひとり旅も流行っているけど、修善寺、堂ヶ島、松﨑、今井浜って。
随分長い二泊三日だったでしょうね。

まぁ、これも運命、29歳の時に素敵な奥さんと出会えたのも運命。
何が良かったかはあとからわかるものなのね。

特集:伊東四朗劇場

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