朱泥急須に隠された最古のやきものの秘密 常滑焼

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朱泥急須に隠された最古のやきものの秘密 常滑焼

タイルとテラコッタで装飾された、フランク・ロイド・ライト設計の「帝国ホテル旧本館」は、日本における鉄筋コンクリート造建築と建築陶器による装飾の時代のさきがけとなりました。
関東大震災(1923〈大正12〉年)を契機に、建築は明治以来の主流であった煉瓦造から鉄筋コンクリート造へと変わっていきます。
その建築陶器の老舗「INAX」(イナックス:現リクシル)の発祥に地がここ常滑でございます。
常滑焼は美しいオレンジの朱泥の急須が代表的なものですが、その歴史は決して順調なものではありませんでした。

「常滑」
古い言葉で「滑りやすいところ」と言う意味を持つ町の名は、古くから良質の粘土(いわゆる陶土)を算出していたことがうかがえます。
その証拠に、町じゅうの坂道には、滑り止めのために敷き瓦ならぬ「敷き土管」や「敷き陶片」が施され、常滑独特の風景を演出しています。
ここ愛知県常滑市は知多半島にあり、そこを中心として焼かれるやきものが常滑焼でございます。

中世、東海地方の窯場では瀬戸と並び、重要な窯でした。
その常滑焼はどんなモノなのでしょう。

【常滑焼の歴史】

日本六古窯として最古の歴史を誇る常滑焼は平安末期にはすでに「古常滑」と呼ばれるやきのもがございました。
そのころの知多半島の丘陵地には3000基にも上る穴窯が築かれ、日本最古にして最大のやきものの産地でした。
穴窯が築かれ壺や山茶碗、山皿などが焼かれ、特に大型の壺や甕を得意としており東北・関東・中部・関西・中国・九州地方まで日本全国に運ばれ使われていました。
日本各地の遺構から壺や甕が出土しており、回路を通じて遠隔地まで運ばれていたことがわかります。
瀬戸の施釉陶器に対し、無釉の焼き締めの常滑焼は、天正2年、織田信長のひと声で運命が分かれます。
当時六古窯の中で施釉の焼成に成功した瀬戸焼は公家や豪族、寺社から注文が殺到しておりました。
信長は「瀬戸以外に窯を築くことはまかりならん」と禁窯令を出したのです。
これにより常滑焼は大打撃を受けましたが、江戸時代中ごろから活況を呈するようになりました。
今までの焼き締め陶から、低温で焼成させた調理用の竃、行火、蛸壺など、いわゆる赤物と呼ばれるやきもので復活したのです。このころ常滑焼を代表する朱泥急須も作られるようになりました。
その後、明治に入ると登り窯が導入され、大量の土管を生産するようになりました。
そこからは苦労した分、創意工夫する地盤が築かれていたのでしょう。タイルを始め、建築陶器、衛生陶器の本場として地位を築くことになりました。
今では無釉から施釉まで、伝統的な器からオブジェまで、幅広く世に出すに至りました。

【常滑焼の特徴】

常滑焼は大型の壺・甕など、いわゆる大物のやきものが特徴です。
この大物を作る際には紐作りの技法で制作されます。
この紐作りは、古常滑が元祖で、平安の時代より延々と続けられてきた製造法です。
今もこの伝統工法を引き継いでいいらっしゃる窯元もございます。
最初に土台の上に底を作り、その上に紐土を巻き上げて重ねて行きます。
その際に、モノを動かさずに作る人が動いて後ずさりするように後ろへと回るように巻いていきます。
この方法が常滑独特の伝統工法でございます。
こうすることにより簡単に動かすことができないような大物を作ることができたのですね。

もうひとつの常滑焼の見どころは、中世の古常滑と明治にかけての名工の技法にあります。

古常滑には三筋壺・三璽壺・水壺・大甕・片口などがあり、自然釉の力強い美しさが魅力です。
これぞ大物の常滑焼と言わんばかりの作品が多くありました。

0013.常滑焼5

江戸時代には黒褐色の真焼けや海藻をかぶせて焼く藻掛けの茶陶が作られ、また朱泥焼の開発により急須作りが盛んになり、これら新しい技法が生まれたことによって常滑焼発展の基礎となりました。
曜変天目茶碗や藻焼水差しなど魅力ある作品も多く造られたのです。

それより何を置いても常滑焼の最大の魅力は常滑の街全体にあります。
かつて土管の一大生産地として知られた常滑らしい坂道「土管坂」
坂道が滑らないように煉瓦や陶片が埋め込まれ、道の両側には塀や石垣の代わりに土管が埋め込まれております。
0013.常滑焼2
以前のやきもの工場の煉瓦煙突や、広場資料館のホールとして使われている倒炎式角窯と、やきものの歴史が生活空間に溶け込んでいるのです。
0013.常滑焼4
0013.常滑焼3
また、オブジェや建物の外壁など、古くは焼き締めの器から最新の工業製品まで、常滑と言うまさにやきものと人が共存する街として静かに主張しております。

常滑焼
様々な歴史と作品を理解するのには、常滑の街を訪ねるのが一番なのかもしれません。

参考文献
『やきものの事典』/成美道出版
『やきもの全国有名窯場』/南大路豊/株式会社西東社
『やきものの基礎知識』/前山博志/株式会社学習研究社
『やきものの旅「東日本」』/安藤典子/日本写真印刷株式会社
『やきものの旅「西日本」』//日本写真印刷株式会社
『中島誠之助のやきもの鑑定』/中島誠之助/株式会社双葉社

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