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ハレの日には
柿右衛門を語りつつ
花見酒
JR九州のクルーズトレイン「ななつ星」の日本の巧の技が凝縮された美しく温かみのある空間。
広々とした優美な空間には和を感じる調度品が。
まるで有田焼の作品展かと思うほどに美しい有田焼が随所に散りばめられてございます。
洗面所にあるおしゃれな洗面鉢は人間国宝第十四代酒井田柿右衛門氏の作品。
DXスイートにあるランプシェードもまた柿右衛門氏の作品。
今から400年前、日本初の磁器を生んだ有田。
その後も染付、色絵など、やきもの界に大革命をもたらし、国内外で絶大な支持を受け、多様な美を育て上げてきました。
有田焼の様式には大きく三つに大別されます。
「華麗さの古伊万里」
「格調の鍋島」
「端整の柿右衛門」
様々な文様が独特の美を放ちます。
「古伊万里様式」は中国磁器の模倣から始まり、やがてに日本独特の意匠や形状に至らしめてまいりました。
器全体に描かれた染付、染錦、金襴手と、絢爛かつ豪華な装飾性が特徴でございます。
「鍋島様式」は藍色で精緻に描かれた「藍鍋島」、赤、黄、緑を基調とした「色鍋島」、自然の青翠色の「鍋島青磁」。
写実性よりもとりどりの図案的な構成による流麗さが特徴。
「柿右衛門様式」とは濁手(にごしで)と呼ばれる乳白色の素地の余白を十分に生かしながら赤、黄、青、緑で季節感あふれる花卉文様や親しみやすい動物文様などが叙情性豊かに描かれ、乳白の素地を活かすべくやや控えめに配してございます。
日本的な非対称・不均衡による独自の美を完成させている、世界に誇る日本の逸品でございます。
柿右衛門最大の特徴である乳白色の濁手は1670年代に確立されました。
それまでの白磁よりさらに洗練された純白は、赤をはじめとする鮮やかな絵の具で彩られた図柄の美との対比に賛美を浴び、ドイツのマイセン窯や、イギリスのチェルシー窯ほか世界各国で手本となり模倣されたのでございました。
しかしながら1990年にピークを迎えた有田焼の需要が、その後の景気の低迷により一時かなり落ち込んでしまいました。
日本の伝統美を愛する方々からは無念の声が上がったのでございます。
ところが東日本大震災からの復興も相まってこのところの法人需要の回復が功を奏し、上向いてきております。
さらには近年の海外での日本ブーム日本の伝統の良さや、メイドインジャパンへの憧れ、有田の人々の前向きな取り組みなどから急速に人気が再燃してきているという、うれしい流れになってまいりました。
空気が凛とした冬の季節もやがて春を迎えます。
桜咲く春。
この季節には、ことのほか感じることがあります。
日本酒が向きには酒器を語らずにはおけないでありましょう。
桜の花びら舞い落ちるなかで往時の煌めきを思いつつ、さらに日本の良さ、日本人であるありがたさに五穀豊穣の願を込めて、伝統様式の杯で一献やりたいものでございます。
柿右衛門様式の担い手として伝統を守り続ける仁窯作家小畑裕司氏による桜が花開いた「桜文の酒器」。
注ぎたるふくよかな香り。
注がれる酒も一段と美味くなること間違いないでありましょう。
人生を振り返るに当り、一つぐらいは高趣味な酒器があってもよいのでは。
世間の何の決め事もない今日を自分だけの特別な記念日とするもよし。
自分だけの「ハレの日」にそっと乾杯。
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