土と炎が織りなす焼き締めの美 備前焼

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土と炎が織りなす焼き締めの美 備前焼

釉薬を掛けない焼き締めは昔ながらの備前の魅力です。
備前焼は岡山県備前市を中心とした窯場で、日本六古窯の中でも最も古く、今も無釉の焼き締めを焼き続けています。
古代の須恵器の流れを汲み、中世に壺や甕、擂り鉢などの日用雑器を焼いてきた備前焼。
桃山期以来、土と炎が生み出す、素朴で繊細、豪快で温かい、窯変の美に魅了されるやきものでございます。
古風な土の変化とその味わいは、侘び寂びを大切にする茶人好みとして愛されてきました。

【備前焼の歴史】

備前焼の始まりは古代の末域にまで遡り、現在の邑久郡・長船町・邑久町・牛窓町などの広い地域にまたがって須恵器は焼かれておりました。
この須恵器は奈良時代がピークで、平安時代には衰退してしまいます。
現在見られる備前焼は鎌倉時代後半から焼かれるようになりました。いわゆる茶褐色の備前焼でございます。
はじめの頃は土や燃料の調達が便利な熊山に窯を築いておりましたが、爆発的な人気により販路が拡大し、大量生産の必要性が高まりだしました。
そこで平地に窯を写し、桃山時代には伊部の町に南、北、西に三つの大窯を築きました。
なんとひとつの窯の大きさは50mほどに及び、40日から50日の時間をかけて焼成したのでした。
ここで焼かれた壺・甕・擂り鉢は西日本全域に渡り供給されたのでした。
ものすごいシェアを誇っていたのですね。
室町時代後半から侘茶が流行りだすと、焼き締めの備前焼は茶人に好まれ茶陶としても人気出てきました。
壺やあ甕と言った大物から、小物に移っていったのです。小物専用の窯もでき、この窯ではオーダーメイドも対応してました。
「融通窯」と呼ばれた所以でございます。
江戸時代後期には、有田焼、瀬戸焼と言った磁器に押され、明治の頃には衰退してしまいました。
現在の備前焼の地位は、実は昭和30年代に入ってからなのでございます。
やきものに対する好みは時代により変遷し、これによって盛衰の歴史があったのでございます。

【備前焼の特徴】

鼻炎焼の最大の魅力は、窯の中で「土」と「炎」と「灰」が生み出す器肌の表情豊かな窯変でございましょう。
釉薬を掛けずに長い時間をかけて焼しめるために非常に堅牢になりますが、同じ土で同じ窯で焼いても窯の中に置かれた場所や炎の当たり方や灰の被り方の違いによって、二つとして同じものができないのでございます。
ここに茶人達が惹かれたのでありましょう。

備前焼を知るにあたり、いくつかの豆知識を知っておきましょう。

○土
無釉で焼き締める備前焼は、土が命でございます。田んぼの底にある黒い「田土」と呼ばれる粘土を冬の間に掘り出して数年間寝かせます。
この土は粒子が細かくねっとりとしているので、轆轤でも手づくねでも成形しやすく、作りやすいのです。
酸化鉄を多く含むために、10日間前後じっくりと焼成させると、茶褐色で堅牢な焼き締めの備前焼が出来上がります。

○緋襷
器肌に現れる赤褐色の条線文様のことでございます。器を重ね焼きする際に、窯の中で器同士がくっつかないように、間に藁を挟んだり縄で縛って窯入れします。
すると巻きつけた藁や縄が燃えて化学変化を起こし、その部分に緋色の緋変わりが線状に入り景色を生み出します。
どうなるかわからないところに妙があり、好まれておりましたが、現在では意図的にも行われております。
0019.備前焼4

○桟切り
窯床に置かれた器が灰に埋もれて直接炎が当たらずに燻されて灰青色や暗灰色に焼き上げられたものを言います。
酸素の少ない還元炎焼成により、緋襷をともに代表的な窯変とされております。
0019.備前焼6

○ぼた餅
窯の中で器を置くときに、皿や鉢の上に小ぶりの器を重ねて焼くと置いた部分には炎が直接当たらずに赤く焼けムラが生まれます。
形がぼた餅のように見えるとこからこう呼ばれる丸く赤く抜ける変化でございます。
まんじゅう抜けと呼ばれることもございます。
0019.備前焼5

○焦げ
窯の中で置かれた器によって、炎の当たり具合や灰の被り具合によって部分的に黒褐色や黒緑色になる状態を言います。
信楽焼や伊賀焼にも同様のモノがみられます。

○火色
土の中に含有された鉄分が酸化して、器肌に部分的に赤く表れた斑紋のことを言います。緋襷もこの一種です。
0019.備前焼3

○かぶせ
袋物と呼ばれる、壺や徳利など口のすぼまった袋状の器や土瓶や急須のように内部に空間がある器を焼くときに、上に別の器をかぶせて焼く方法を言います。
こうするとかぶさった上の部分と下の部分では炎の当たり方が異なり、違う焼き具合になります。
0019.備前焼7

○ごま
窯の中で焼成中に薪の灰が器肌に降りかかって溶けるとゴマをまいたようになるモノを黄ゴマと言います。同様に青黄色のかせた感じになったのをかせごまと言います。
0019.備前焼8

このように焼き締めの器ならではの特徴がありますが、初期の頃には土と炎による偶然の産物でございましたが、江戸時代以降は人為的にこのような窯変を出すようにもなりました。
0019.備前焼2

釉薬も色絵もない焼き締めの器。
土肌の表情は実に豊かで、健康な素肌のようです。
備前を訪れ、遠い歴史に思いを馳せながらお気に入りの一品を選んでみてはいかがでしょう。

参考文献
『やきものの事典』/成美道出版
『やきもの全国有名窯場』/南大路豊/株式会社西東社
『やきものの基礎知識』/前山博志/株式会社学習研究社
『やきものの旅「東日本」』/安藤典子/日本写真印刷株式会社
『やきものの旅「西日本」』//日本写真印刷株式会社
『中島誠之助のやきもの鑑定』/中島誠之助/株式会社双葉社

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