秋風よ・・・さんま苦いか塩っぱいか

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秋風よ・・・さんま苦いか塩っぱいか

詩人・作家である佐藤春夫の詩ですね。

秋ともなると、この詩が思い出され、香ばしいサンマを焼く煙が立ち込める風景が頭に浮かびます。
毎年、各地でさんま祭りが催され、どこも盛況のようです、

【さんまの美味しい時期】

さんまは9~10月が旬と言われています。
一年中いるはずのさんまが、なぜこの時期にもてはやされるのでしょうか。

さんまは8月下旬から北海道沖より親潮に乗って南下してきます。
このさんまは脂が乗っていますが、実は餌が十分消化されずに腹の中に残っていますので、鮮度が落ちるのが早く身もしまっていません。
この具合がよくなるのが、9月中旬から10月上旬でちょうど三陸沖を通過するころのさんまです。
さらに南下して静岡県あたりに行くころにはすでに脂は無くパサパサした感じになっているそうです。

この時期は餌を食わないので内臓に何も残らないため、はらわたも食べられるのですね。
と言うわけで、9月中旬から10月上旬頃のさんまが最高というわけです。

さんま苦いか、塩っぱいか

この「苦いか」は、はらわたの味を指しているのでしょう。

さんま1

【美味いさんまの見分け方】

まず、目に透明度があり、赤くなっていないものですね。(冷凍のモノは鮮度が落ちて目が赤くなっています)

次に、大きくて、丸々とこえていて、口先の黄色いものが脂がのっているものです。
オスはオレンジ色でとがっていて、メスは下あごがオリーブ色で丸味があり、メスが少々おいしいといわれます。
まぁ、口先が黄色くなっていれば脂が乗っている証ですねで、どちらもおいしいと思いますよ。

そして、腹から尻尾にかけて綺麗な銀色に輝いており、背中が青く光を放つ模様がはっきりしているものです。

最後に、背も腹もぶよぶよしておらず、はりがあって身が反り返る形がいいものです。
ただし、魚屋ではりを確かめるために、魚を直に触ることは慎みましょう。

さんま6
【美味しいサンマの食べ方】

時折見受ける「さんまのお刺身」は、水揚から数日以内のさんまでしか味わえません。
産地に行った際には食べてみましょう。
さんま2

すると、やはりさんまの食べ方の王道は「さんまの塩焼き」でございましょう。
これぞ秋の味覚の代表格。
うーん。考えただけで食べたくなります。
さんまのいない1年間は長かった・・・
そう思って食べた最初の1尾のうれしさと言ったら・・・

【なぜさんまは塩っぱいか】

佐藤春夫の「秋刀魚の歌」には

「さんま苦いか」の次に「塩っぱいか」と続きます。

さんまの食べ方は「塩焼き」が王道と言われているだけに、食べた時の味が塩っぱいのだ、とお思いの方が多くいらっしゃるでしょう。
この詩の背景には、深い親交のあった谷崎潤一郎の妻千代への思いが秘められていたのでございます。
小田原にある谷崎潤一郎宅に一時滞在していた時でした。
当時谷崎は家庭を顧みず、他の女性に夢中でした。そんな様子を間近に見てた春夫は、千代への同情の気持ちからは恋愛感情へと深まっていったのです。
15年ほど後、千代は潤一郎と離別して春夫と結婚。ようやく春夫と千代が一緒になれたのでございます。
「双方の交際は従前通りとする」と言う内容の三人連名の挨拶状が知人関係者へ送られるという「細君譲渡事件」として語られています。

1尾のさんまを食すに当り、様々な思いが春夫の頭にはよぎったことでしょう。

先ほどの「さんまの歌」の前後には

・・・・・
あわれ
秋かぜよ
情(こころ)あらば伝えてよ、
夫に去られざりし妻と
父を失はざりし幼児(おさなご)とに
伝えてよ
男ありて
夕げに ひとり
さんまを食らひて
涙をながす と。

さんま、さんま、
さんま苦(にが)いかしょっぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいずこの里のならひぞや。
あわれ
げにそは問はまほしくをかし。
・・・・・

とあります。
熱き涙は塩っぱいのでしょう。

さんま苦いか塩っぱいか

さんまが苦いのは、「大人の恋のほろ苦さ」を、秋風に託したのでしょうか。

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